此処はツバサの双児吸血鬼を愛する管理人の、妄想の捌け口となっております。
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では、とびっきりの悪戯をどうぞご覧下さい。。>>>Since.2007/10/31(Wed)
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柔らかく頬を撫でる風
それに運ばれ色濃く香る草木の匂い
囁くように波寄せる草原
新たな次元を渡った先は、どこまでも広がる新緑の丘だった。
【閑話】
「綺麗な場所だね」
「あぁ」
辺りは見渡す限り鮮やかな緑に溢れ、彩るように花々が一緒になって揺れている。
見る限りこの辺りには人が存在していないようだ。
人の手の入っていない、ありのままの自然がそこにあった。
「良い風……気持ちが良いね」
「そうだな」
二人はこんなありのままの自然が好きだった。人の雑多な意思も、鋭敏な感覚を悪戯にざわつかせる雑音もないからだ。
以前はこんな景色の中に溶け込んで、昼寝をしたり穏やかに過ごすのが日課だったのだが、ただでさえあまり余裕がなく時には物騒な次元の旅に出てからは、皆無となってしまっていた。
だから、昴流が提案してきた事に神威は驚かなかった。
「ねぇ、少しだけ休んでいかない?」
やっぱりか、と言うのが正直な感想だった。
だが、自分とて嫌な気はしない。最近結構なペースで次元を渡っていたから、そろそろ疲れてきていたのも事実だ。そしてそれは昴流も同じに違いない。
加えてこの片割れは、自分が止めなければ疲労を自覚していても無茶をするだろうから、今の内に身体を休めさせるのは悪くない。
なら、少しくらいは良いだろうと心の中で判断を下す。
「…日が暮れるまでには発つぞ」
「うん」
片割れが自分の事を考えて言ってくれたのをしっかり汲み取った昴流は、それに穏やかな笑みを返した。そして彼の腕に己の腕を絡めると、なだらかな傾斜を描く緑丘の上の野原へと腰を下ろした。神威もつられて座る。
そこへ穏やかな風がやってきて、二人の頬を撫でて行く。
昴流がそれに微笑を浮かべ隣の神威を見ると、やはり彼も笑みこそ浮かべてはいないものの、常に無くリラックスした雰囲気を纏っていた。
休憩に誘ってみて、本当に良かったと思う。
このところ移動続きで、自分だけでなく彼もかなり疲れていたのを、昴流の方も分かっていた。最も、神威は自分で自覚しているよりも疲れているのに気付いていなかったようだが。
そんなところが無自覚で、自分が見ていないといつか限界を超えて無茶をしそうで心配になる。
---相手に似たような事を思われているとは、二人は露ほども考えていなかった。
「ほんとに気持ち良いね。陽射しも昼寝日和だし」
身体の後ろに手を付き仰向くようにして陽射しを浴びると、思わず眠気を誘われそうになる。そのまま瞼がうっかり落ちそうになり、慌てて目を開けた。
いくら休憩中でもここで寝てしまっては、神威があまり休息を取れなくなるかもしれない。彼だって疲れているのだから自分の事で遠慮させたくないと、目元を擦り頭を振って眠気を振り落とそうとする。気付かれたら、きっと気を遣わせてしまうから。
最も、傍から見れば眠気を堪えているのが丸分かりなのだが、そこに気付いていない辺り彼もかなり疲れているのだろう。
そんな片割れを見て、神威は顎に手を当て僅かに逡巡した。それに昴流は首を傾げる。
「神威?どうかした?」
「ん」
短い返事は肯定か否定か酷く曖昧だったが、おそらく肯定だろう。
その返事と共に、神威から遠い方の腕を掴まれたから。
「神威…?」
本当に急にどうしたのだろうと、顔を覗き込もうとすると同時に更に腕を引かれ、体勢を崩された。
思わず咄嗟に手を突くが、上半身で神威の膝を跨ぐ格好になる。
「っ、何?」
あまりにも前触れのない行動に、さすがの昴流も困惑する。
なのに神威はそんな事はお構いなしに、昴流の胸に手を当て上体を反転させると、仰向けになった彼の頭を自分の太腿辺りへと落ち着けさせた。
瞬く間に行われた早業に、驚きで頭が一瞬真っ白になりしばらく無言が続き……ようやく、現状を理解する。
「か、神威?」
「何だ」
「……何で、急に膝枕…?」
そう、今の昴流は神威の膝より少し上に頭を乗せ---所謂、膝枕をされていた。
「お前、眠いんだろう」
「っ、」
「なら、さっさと寝ろ」
端的でぶっきら棒な物言い、いつもと変わらぬ無表情。それだけ見ればいつもと変わらないだろう。しかし昴流には、その目に薄っすらと滲む心配げな色を読み取る事が出来た。
相手に気を遣わせまいと隠していたつもりだったが、丸分かりだったらしい。
それどころか、逆に気を遣わせてしまった。
「…僕、そんなに分かり易かった?」
「…あれで隠してたつもりだったのか?」
心底驚き半分、呆れ半分で言われてしまい脱力する。神威も何と言えば良いか分からず肩を落とす。
こんな風に抜けているから目が離せないのだ。
だがとりあえず今は、休息を取らせる事が先だと思考を切り替えた。
「良いから早く寝ろ」
「でも、神威は?」
「俺は別に良い」
素っ気無く返された言葉に、昴流は眉を顰める。神威こそ自覚は無くともかなりの疲労を溜めているのだ。ここで自分だけが休む訳にはいかない。
だから素早く膝から起き上がりそれに驚いている隙に、相手の上体を後ろへと倒した。
神威の身体を、草原の緑が優しく受け止める。
「昴流っ」
「神威だって休まなきゃ駄目だよ」
「けど…」
二人で寝るのはあまりに無防備過ぎる。何より、昴流を守る者がいなくなる。
「大丈夫だよ。それに、何か来たらちゃんと気付くよ」
それは無責任な言葉では決して無い。
確かに唯一心を許せる片割れが傍に居ればガードは自然と緩むが、大切な相手と共に居るからこそ、害する可能性のあるものが近付けば目は覚める。
そしてそれは、もはや互いの本能となっている。
あくまで神威が起きていようとするのは、万が一の事を考えてだ。
改めて周囲の気配を探る。
吸血鬼の鋭敏な感覚でも、今のところ自分達以外の気配は全く感じない。
ならば、少し休んでも良いだろう。内心でそう結論付け白旗を揚げる。
「……分かったから退いてくれ」
「うん」
その返答に昴流はにっこりと笑顔を返し、神威の上から退くと再び太腿に頭を乗せた。
それに溜め息一つ吐くと、神威は頭の下で両腕を組んで枕にすると静かに空を見上げ、雲の流れを眺めた。
しばらく穏やかな時間が続き、じきに昴流の寝息が聞こえてきた。
神威の瞼も段々と重くなって来て、空を見るのを断念し瞼を閉じる。
相変わらず頬を撫でて行く風は気持ち良いが、その度に膝に居る昴流の髪がさらさらと散らばり少しくすぐったい。
けれど、そんな感触も嫌いではない。片割れの真っ直ぐで癖の無い髪が、見た目よりも柔らかいのを知っている。
何となくそれに触れたくなって、辛うじて届く範囲に置かれている頭へと手を伸ばした。
すでに昴流はぐっすりと眠っていて、髪の先を少し摘んだくらいでは起きなかった。 それを良い事に、摘むのではなく梳いてみる。相変わらずの感触が伝わって来て、口元にあるかなしかの微笑が浮かぶ。
神威は生来表情に乏しい質だが、片割れと居る時は別だった。特に相手でさえ知らないような、こんなふとした時間の中ではそれが一層顕著だ。
最も、目撃する者がいないから昴流でさえ知らない事実なのだが。
そうして神威はしばらく髪を梳き続けた。当の昴流はその感触が気持ち良いのか、寝顔に仄かな笑みを浮かべながら夢の中だ。それが更に笑みを深くさせる。
こうして次元を渡る旅に出る以前から、ずっと願っていた。この片割れがいつも穏やかな心を抱きながら、永い刻を過ごしていける事を。
そしてそれが自分の一方通行な願いではないのを神威は知っている。それは声に出されて言われたものではないけれど、いつも何気ない言葉や仕草に優しく滲み、自分を慈しんでくれた。そしてそれは今も変わらない。
だからこそ僅かな間でも、再び二人でこうした安息を得られる事が嬉しかった。
自分だけでなく、相手もそれを望んでくれた事が尚更それを増長させる。
「間抜けな顔だな…」
そう呟く声音は優しく、表情は言葉を裏切る。
膝の辺りに感じる重みや温もりが、どれほどこの胸を満たすのか彼は知っているだろうか。
生来他者への警戒が強く常に神経を尖らせている自分に、唯一心を休め寄り添っていられる対が隣に居てくれる事がどれほどの安息を齎すのか。
笑顔の仮面の裏でその実かなり分厚い心の壁を持つくせに、自分を頼ってくれる事がどれだけ支えてくれるのか。
---なのに、時折さらりと滑り落とされる言葉が、自分の滅多に動かされる事のない感情を否応なしに激しく揺さぶるのか。
そう思って息を吐く。
考えるまでもなく、最後のものは確信犯だ。知らないわけがない。
そのくせ、自分に向けられる心配等といった気持ちはなかなか気付かないのだから腹が立つ。それが素なのだから尚更だ。
この心情をいっそ心で伝えてしまえば、苦労も少なくなるだろうか。
今の状況になるまでの会話を思い出し、眉間に皺を寄せて思案する事数秒。
「………」
考えるより先に浮かんだ結論は、つまらない、だった。
よく知っているはずの相手から、自分が知らなかった気持ちを少しずつ伝えてもらうのは、単純に言えば嬉しかった。二人にとって心を読むのは息をするのと同じくらい簡単な事だが、だからこそ言葉にして伝えてもらう気持ちは特別だと感じられる。
自分達は人間よりも遥かに永い刻を生きるのだ、急がなくても時間はたっぷりある。
だったら遠回りでも、多少の苦労をかけられても面白い道を選ぶのも良いだろう。退屈なだけの時間はいずれは飽きてしまう。
神威は自分も大概酔狂だと自嘲しながら、それでも穏やかな微笑を浮かべ、ゆっくりと目を閉じた。
やがて、二人分の寝息が風に乗って流れ始めた。
【FiN】
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同属に電光石火でROM専から萌え落とされ墜落。
双児への愛が溢れる限り叫び続けます。